「伝わる・学べる・UDフォントの世界」のテーマにて、オンラインセミナーを計4回に分けて実施をしました。これまでの活動を通して出会えた各専門家の方々からUDフォントを通して「学び」の最前線をお話しいただいた、オンラインセミナーの様子をレポートします!
セミナーレポ:Day1
「SDGs日本モデル」宣言いなべ市がかかげるUDフォントとこれからの教育
レポート担当:モリサワ野口
2020年7月13日にUDフォント4Daysオンラインセミナーの第1回目を実施しました。
「SDGs日本モデル」宣言いなべ市がかかげるUDフォントとこれからの教育と題し三重県いなべ市佐藤 祐孝氏様からいなべ市が考えるSDGsと教育についてご紹介頂き、株式会社モリサワ橋爪より、UDフォントを有効に使ったパッと伝わる「学校のお知らせ」を作るレイアウトのコツに関してご紹介させて頂きました。
UDフォントを通してSDGsの基盤作りを目指す
三重県いなべ市 政策課 課長補佐 佐藤 祐孝氏
「SDGs未来都市」に選定され、SDGs最先端の街であるいなべ市は、2018年より広報誌『いなべブランド冊子』にてSDGsの視点を採り入れていると佐藤氏。
「にぎわいの森」という商業施設もいなべ市にオープンしましたが、そのPR動画にもSDGsの視点を導入しているそうです。しかし、職員のSDGsへの理解はまだ十分でないことから、取っかかりとして、カードゲームによる研修を実施することでSDGsへの理解を深めたそうです。
また教育の事例として市内の1つの中学校において、モリサワと協業のもと「伝わる資料作り」を実施。これは高齢者や視覚障害のある方でも読みやすい、ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)を使い、木材や金属の特徴を伝える発表資料を作りました。参加した生徒からは「自分たちが社会に出た時に役立つ授業でした」との感想が寄せられたそうです!
コロナ禍においての取り組みに関してもお話を頂きました。
外国籍の家庭への情報提供が難しいことから、いなべ市ではモリサワの多言語対応デジタルブックツール「MCCatalog+(エムシーカタログプラス)」を活用。自動翻訳した文章を配信したのち、国際化対応の教員が電話などでフォローされているそうです。MC Catalog+は音声読み上げ機能も搭載しており「言語の違いや障害の有無にかかわらず、スムーズに学べるはず」と佐藤氏。
またMCCatalog+を使用することで、SDGsの「④質の高い教育をみんなに」「⑩人や国の不平等をなくそう」に貢献できるほか、国際化対応の教員の翻訳負担軽減、印刷費節約などのメリットもあるとのこと。
いなべ市はモリサワと協働することでSDGsの基盤作りを目指していて、昨年11月には包括協定を締結。佐藤氏は「誰一人取り残さない情報発信により、地域を底上げしたい」との抱負を中心に講演頂きました!
パッと伝わる「学校のお知らせ」を作るレイアウトのコツ
株式会社モリサワ 公共ビジネス課 橋爪 明代
Day1セミナー2部のパートでは、株式会社モリサワ橋爪より「伝える」から「伝わる」学校のお知らせづくりに関してのレイアウトのコツを講演。
「伝える」は一見わかりにくく、理解に時間がかかるもので、「伝わる」はわかりやすく、もっと読みたいと思うものだと解説。なかでもUDフォントは多くの人にとって文字の形がわかりやすく、読みやすくて読み間違えも少ないことを説明。
「伝わる」ためには情報に優先順位をつけ、読んでもらいたい箇所は文字サイズを大きく太くするなど、フォントやレイアウトで強弱をつけるのがポイントと橋爪。
ワードやパワーポイントには、斜体やアート文字などの加工機能がありますが、せっかくのUDフォントが崩れてしまうため、「加工は避けるのが基本」と話す橋爪。また、モリサワのUDフォントにはいくつも種類がありますが、1つのテキストにたくさんの種類を使うとゴチャゴチャするため、「ある程度絞ったほうが読みやすい」とのこと。
そして誰に伝えるか、どうやったら読者が情報を取りやすいかを考えることが、レイアウトをする上では重要であると補足を頂き、オンラインセミナーは終了となりました。
セミナーレポ:Day2
教育現場で使用されるUDフォント、そのメリットは?
レポート担当:モリサワ仁田野
2020年7月20日、UDフォント4Daysの2回目のオンラインセミナーが開催されました。「教育現場で使用されるUDフォント、そのメリットとは」と題し、熊本大学 教育学部附属特別支援学校 後藤先生とモリサワ 公共ビジネス課 仁田野から、近年教育現場で使用され始めたUDフォントについて、その基礎的な情報から使用理由や使用感などをお話しさせていただきました。
UDフォントの基礎知識
株式会社モリサワ 公共ビジネス課 仁田野 良介
この回の第一部ではモリサワより「UDフォントの基礎知識」として、UDフォントのコンセプトや特徴、意義などを説明しました。
情報発信の重要な要ともなるフォント(書体)には様々な種類がある中でも、UDフォントは《時代のニーズに合わせ登場した、これまでの書体よりも 読み手により配慮した書体》であること。さらにその中でもモリサワの教育用のUDフォント「UDデジタル教科書体」についてはロービジョンやディスレクシアに配慮した、学びのための書体であることを説明しました。
実際に小学校の教科書で採用されていることや奈良県生駒市さまの自治体として実証実験を行い、市内の全小中学校でUDフォントを導入された事例をご紹介させていただきました。
オフラインではもちろんのこと、特にオンラインでは画面に表示させる文字は非常に大切で、これからは使用する書体に対し、少し意識していただきたいと思います。
最後に、「フォントを変えてあげる。ただそれだけで読める子供たちがいます。やる気になれる子供たちがいます。UDフォントとは、【自分のためではなく誰かのために選んで使うフォント】である」ことをメッセージとしてお伝えさせていただきました。
第二部では熊本大学教育学部附属特別支援学校の後藤先生から、「見え方への気配り」がとても大事であり、「Teach U 〜特別支援教育のためのプレゼン教材サイト〜 」を通してUDフォントとの出会いや使用感などをお話しいただきました。
教育現場で使用されるUDフォント、そのメリットは?
熊本大学 教育学部附属特別支援学校 後藤 匡敬氏
こういうこと、ありませんか?と優しい口調でお話しいただいたのは、漢字の「北」を明朝体の形に近い字形で書いてしまう子供がいることを始めにお話しいただきました。本来手書き(教科書で使う書体)だと形が違うのですが、何か印刷物を見て覚えたのだろうかと。この時に後藤先生は、「文字の見え方は大事だな」と感じたそうです。
フォント(書体)については、先生自信もUDデジタル教科書体を気に入って使っていただいていますが、子供たちにとっても手書きに近い形のほうがわかりやすいといいます。
また、「身の回りにはたくさんの情報が溢れている中で、子供たちもなんとか自分に必要な情報に焦点を当て取得している。そのため情報発信者は【見え方への気配り】がとても大事である」と訴えられました。
これには「やさしい心(,)で」という文字を書いた際、思わず打った点(,)も同じように書く子供を見て、「相手がどう見えているのか? 見る側の視点を発信する側が意識する必要がある。」と強く感じた体験があったそうです。
熊大附特の授業では、パソコンやタブレットを大画面に投影する「画面を介した学び」に取り組んでいるそうです。さらに今年はコロナ禍によるオンライン授業も増え、「画面で見やすいフォント」に気を配る必要があると助言をいただきました。
UDフォントについては、指導内容確認表では小さい文字サイズでも視認性も高く、拡大してもきれいに見える。情報量が多くても見えやすいと感想をいただきました。
また後藤先生が現在運営している「Teach U 〜特別支援教育のためのプレゼン教材サイト〜 」でも、子供たちのためUDフォント(UDデジタル教科書体)を使用して教材素材を作成されているそうです。
「特別支援学校の子供は一人ひとり教科書が違うことがあり、本来、先生に用意されるはずの〈指導書〉がありません。よって各先生は、試行錯誤しながら授業を実施しています。そんな先生たちの役に立ちたいとTeach Uを立ち上げ、わかりやすく、使いやすい教材素材を配布しています」と立ち上げの経緯や目的もお話しいただきました。
その後、[ Teach U ]の便利な機能について、画面でデモをおこない、使いやすさを丁寧にご紹介いただきました
セミナーレポ:Day3
ユニバーサルデザインと教育
~これからの教科書・デジタル教科書・教材での利用展開~
レポート担当:モリサワ盛田
2020年7月27日、4週連続セミナー企画「UDフォント4Days」の第3回を開催いたしました。
この日は「ユニバーサルデザインと教育~これからの教科書・デジタル教科書・教材での利用展開~」をテーマに、株式会社新興出版社啓林館 執行役員 事業本部 編集統括副本部長の坂本様より、同社が出版する教科書等におけるユニバーサルデザインの取り組みについてのご紹介をいただきました。
ユニバーサルデザインと教育
~これからの教科書・デジタル教科書・教材での利用展開~
株式会社新興出版社啓林館 執行役員 事業本部
編集統括副本部長 坂本 陽一氏
2020年度より刷新された小学校教科書では、教科書のユニバーサルデザイン化に向けた取り組みとして「フォント」「カラー」「レイアウト」の3点を特に意識し、なかでもフォントは2016年より検討を開始されていたとのことです。
フォントの検討にあたり「とめ・はね・はらい」に忠実な教科書体であり、且つユニバーサルデザインに配慮したもの、またデジタル教科書としても読みやすい書体を探しておられたところで、弊社のUDデジタル教科書体をご採用いただくこととなりました。
さらに啓林館さまの小学校向け英語教科書には、UDデジタル教科書体の欧文シリーズをご採用いただきました。
■マルチリンガル教科書
次に坂本さまより、同社がSDGs(持続可能な開発目標)を推進する上で、弊社の多言語ユニバーサル情報配信ツール「MCCatalog+(エムシーカタログプラス)」を活用した新しいサービス「マルチリンガル教科書」(※2020年度はトライアル期間)についてもご紹介をいただきました。
マルチリンガル教科書は、日本語をスムーズに読み進められない外国籍や帰国子女の
児童・生徒の学びをサポートする教材で、SDGsの目標である「④質の高い教育をみんなに」や「⑩人や国の不平等をなくそう」を大きなテーマとして取り組まれております。
伝わるデザインで社会に貢献する
株式会社モリサワ 公共ビジネス課 盛田 辰彦
■伝わるデザインで社会に貢献する
「UDフォント4Days」第3回の弊社のパートでは、みなさまのSDGsへの取り組みのお手伝いができる弊社製品をご案内をさせていただきました。
UDフォントの明朝体やゴシック体・丸ゴシック体は、それぞれご高齢の方や弱視の方にも読みやすい工夫をしており、おかげさまで高い評価をいただいていることから弊社ではSDGsの目標である「③すべての人に健康と福祉を」に貢献できるとしております。また、UDデジタル教科書体は、教育現場での実証やご評価をいただいていることから「④質の高い教育をみんなに」に貢献できるとしております。
その他、弊社がもつ多彩なUDフォントは多言語にも展開をしているので「⑩人や国の不平等をなくそう」や「⑪住み続けられるまちづくりを」をSDGs目標とされている方へもお手伝いができると考えております。
また弊社では、UDフォントを使用した情報配信ツールも提供しており、こちらのツールもSDGs貢献製品として位置付けております。
啓林館さまのマルチリンガル教科書にもご採用をいただいております、多言語ユニバーサル情報配信ツール MCCatalog+(エムシーカタログプラス)です。
http://www.mccatalog.jp/
MCCatalog+は情報を発信する側が使用するツールです。PDFデータがあれば簡単な操作で多言語(日本語を含む10言語)に変換し、専用ビューア(アプリやブラウザ)へ情報発信が可能なツールです。※多言語音声読み上げ機能アリ
全国ですでに170以上の自治体にも採用されているMCCatalog+。
普段は広報紙や観光情報、学校給食の献立やゴミの分別方法など、生活や地域に関するさまざまな情報発信にご利用をいただいております。
また災害発生時には緊急情報などの情報発信にもご活用をいただいております。SNSなどと連携をすることで、なるべく早く情報を拡散するツールとしてもお役に立っております。
〇 情報に欠かせない文字として『UDフォント』
〇 情報を届ける手段として『多言語ユニバーサル情報配信ツールMCCatalog+』
私たちモリサワは、これからも文字を通じてみなさまの情報発信のお役に立てられることを願っております。
セミナーレポ:Day4
教育現場で大注目の「UDデジタル教科書体」を、
開発者と実際に活用している教員の目線でご紹介
レポート担当:モリサワ高田
2020年8月7日(金)にUDフォント4週連続オンラインセミナー Day4が開催されました。
Day4では、日本初のユニバーサルデザインのコンセプトで作られた教科書体「UDデジタル教科書体」をテーマに、先にフォント開発者がその背景やデザインを紹介、次に実際に教育現場においてUDフォントを活用している教員が事例を交えて、「UDデジタル教科書体」の有効性や普及活動について熱く語って頂きました。
開発者が紹介するUDフォントの開発背景とエビデンス
株式会社モリサワ 公共ビジネス課
UDデジタル教科書体 チーフデザイナー 高田 裕美
高齢化が進む日本の社会的背景において、老眼やぼやけなどの見えにくさや読み間違いを考慮して作られた「BIZ UDゴシック」ですが、デザイナーの工夫だけでユニバーサルデザインを語って良いのか?との開発者の疑問から弱視研究の第一人者である慶應義塾大学の中野泰志教授に声をかけ、その出会いから当事者の子どもたちや教育現場の先生、支援者の方にヒアリングが始まりました。
そこで言われたのは、「UDゴシックは弱視の子どもたちに読みやすいと思うが、教育現場では使えない」ということ。なぜなら、UDゴシックは太さが一定で大きく表示されるので弱視者にも読みやすいが、画数や字形が学校で教える手書きからなる教科書体とは異なるからです。そうした観点から、学習指導要領に準拠したUDデジタル教科書体の開発にも着手しました。
開発の中で、弱視だけでなく、ディスレクシア(読み書き障害)や視覚過敏など様々な読みに困難さを抱えている子たちと出会い、それぞれが感じている読みのストレスを配慮した形状でデザインしました。
開発に8年かけ、2016年に4つのウエイト(太さ)でリリース。翌年に「R」と「B」の2つのウエイトがWindows10に標準搭載となり、教育現場にもじわじわと浸透していきます。弱視やディスレクシアなど読み書きに困難さを抱える子どもたちのエビデンスも後押しとなり、2020年からは、多くの教科書で「UDデジタル教科書体」が採用され、一部の国語辞典や漢字辞典、百科事典にも採用されることに。また一般的な教科書体よりも、UDデジタル教科書体を使用したテキストのほうが正答率や全問到達者数が上がったという生駒市の通常学級での検証も伝えました。
UDフォントの活用事例と普及への想い
茨城県立協和特別支援学校 教諭 藤田 武士氏
「UDデジタル教科書体」を通して、文字・人・言葉との出会いがあったと説明する藤田氏は、この書体を見て、読みやすいだけでなく「この文字好き」という第一印象をもったといいます。その後、モリサワのUDフォントエバンジェリストの先生に出会い、ある教育関係のイベントで大阪医科大学LDセンターの奥村智人氏のレポートに「フォントを変えるのは最低限の配慮」と書かれているのを見て、その言葉が胸に深く突き刺さったとのこと。これらの出会いが原動力となり、自分がつくる配布プリントやスライド教材などにも子どもたちの読みやすさに配慮したUDフォントを使うようになりました。
2019年4月には今の学校へ異動となり、早速、職員会議で配られた資料を見たところ、UDフォントを使用していたのは半分以下。特に現場の先生の書体の意識が足りてないことを実感した藤田氏は、先生方にUDフォントの良さを訴求していきます。周知活動のためのパンフレットは、モリサワのHPからダウンロード。また、UDフォントはインストールされていなければ使えないため、インストール率100%を目指し、学校内のPCの点検とアップデートを行いました。そうした努力の結果、先生方の書体に対する意識が高まり、UDフォントの平均使用率も80%に到達。さらに今年度はUDフォントについてのオリジナルの研修動画を作成し、学年会で視聴してもらうといいます。
またUDフォントをもっともっと浸透させたいと、自校の校長に「校長会で提案していただけないか」と提言。それを受けた校長は会議で提案し、同氏の元にも色々な問い合わせがあったとのことです。
「フォントを変えるのは最低限の配慮」と念を押す藤田氏。日課表や掲示物にもUDフォントを使用しているほか、保護者にもUDフォントを使用していることをアピールしているそうです。
今後はすべての学校でUDフォントが導入されること、さらには教育機関や公共施設、官公庁など、あらゆる場所で書体が意識され目的に応じたUDフォントが使われるようになってほしいと、その熱い想いを語りました。
UDデジタル教科書体の新書体発表
最後にモリサワより「MORISAWA BIZ+」に「UDデジタル教科書体」の筆順フォントが新しく追加されることを発表しました。この書体により、筆順表記だけでなく、部首を色分けしたり、文字のパーツを組み立てるゲームを簡単に作れるようになったり、PowerPointのアニメーション機能で書き順動画を作ったりもできると説明をしました。目の前の子どもたちに合わせた教材作りにも役立てて欲しいと思っています。
今回オンラインセミナーという事で、全国から多くの視聴者にご参加を頂きました。
質疑やチャットなど多くのリアクションを頂き、大変盛り上がった4Daysセミナーとなりました!