関東・関西それぞれからフォントに興味のある有志の学生が集まり、フリーペーパー「FONT SWITCH MAGAZINE」の制作を通じてフォントの感性を“ON”にする、「FONT SWITCH PROJECT」。有志の学生とモリサワによる半年間の制作作業の報告会&卒業式が行われました。半年間のマガジン制作作業を経て、参加した学生たちにはどんな発見や成長があったのでしょうか?卒業式の様子をレポートします!
本当に伝えたいのは何だろう? を模索しながらビジュアルを作り上げた2チームと、編集後記チームの発表
モリパス部関西の卒業式より遅れること2ヶ月、台風によって延期となった関東チームの第4回部会、卒業式が開催されました。前回の部会で顧問・マネージャーからの厳しいフィードバックを受け、締め切りが迫る中、関東チームはどのようにマガジンをブラッシュアップさせていったのでしょうか? まず、各チームが完成に至るまでプロセスを振り返り、そのアウトプットについて説明を加えていきました。
まず壇上に上がったのは文字に一目惚れというコンセプトを表現するのに試行錯誤したというビジュアルページチーム。
「コンセプトが決まったとき、少女漫画で主人公が恋に落ちる瞬間のような、キラキラした目のビジュアルが浮かびました。目の形のスケッチをしたのですが、あまり良い表現にならずに悩みました。説明的になりすぎても、読者の興味を引けない。かといってコンセプトが伝わらなくては意味がないので、そのバランスが難しかった」と制作時の悩みを話しました。
最終的にはディティールや言葉を再考し、擬音語を目の中に配置するというアイデアが採用され、少女漫画のようなトキメキ感を表現するためにハイライトをいれるなどビジュアルを調整したとのこと。
続く目次ページは一番悩んだ箇所だったそう。
「ビジュアル優先でデザインを考えていたのですが、それではこの本を読みたいと思える導入の役割が果たせていないとのフィードバックを受けました。そこで、マガジンの入り口としての役割を考え、ボディコピーを配置することにしました」
最終的に出来上がったページには「もっと、好きになる」という言葉が添えられ、情緒を感じる表現になっています。
ビジュアルページは文字情報が続くマガジンの中で、一枚の写真で表現をするページ。読者に直感的にコンセプトを再認識させることを目標としてビジュアルをつくっていったようです。
「一目惚れというコンセプトがある中で、その流れをしっかりと引き継いだ表現にしたいと考えました。同時に、関西の「文字を纏って」というコンセプトにも沿うような表現を意識しました」
人は一目惚れしたとき、「それしか見えない」というほどに視野が狭まってしまうことから、そのイメージを望遠鏡に見立て、丸型の枠に書体のエレメントをクローズアップした何かを作ることに。関西のテーマである、纏うという言葉から、何かは布媒体となったとのこと。
しかし、そうして出来上がったプロトタイプは「纏う」というイメージが弱かったそう。そこで、制作した布をモデルが着用し、写真を撮影するという形を採用し、完成したそうです。
続く発表は編集後記。
FONT SWITCH MAGAZENは両開きの冊子です。関東チームと関西チームそれぞれページの前後から制作を進める中、その中心に位置する編集後記チームはどのような工夫を加えたのでしょうか?
「関西と関東の中心に立つページとして、両者が混ざり、連携していることを伝えるような構成を意識しました。縦組み、横組みとそれぞれの表記を変えることで交わりを表現。フォントにも違いをつけて、それぞれの個性も引き立つようデザインしました」
多くのチームのバランスを取らなければいけない難しい役割でしたが、うまく情報を整理し、一つのページにまとめあげたと、顧問からもお褒めの言葉をもらったとのことです。
本当に魅力が伝わるか? インタビューページに悩まされた3チームの発表
そして本日のゲスト、デザイナーの大溝さんが見守る中、特集ページチームの発表に移ります。
「大溝さんの印象的な文字使い、書体づくりに圧倒的なインパクトがあり、その秘密を探りたいとインタビューを申し込みました」
この言葉の通り、特集チームは大溝さんの作品の魅力を伝える表現を模索します。しかし、一度インタビューを執筆したものの、文章ではその魅力が伝えきれてないことに気づきます。顧問やメンターからも「このインタビューのサビはどこ?」というフィードバックを受け、内容を再構成したそうです。
改めてインタビューの核と考えたのが「力強いグラフィックの身体感覚」。大溝さんのデザインには論理的には説明できない感情の部分が入っていると感じたことから、そのフィジカルな部分が伝わるようページを再編集し直すことに。
好きなフォントを質問しても「その時々で変わる」という予想外な答えが返ってきたインタビュー。事前に思い描いていたデザイナー像から、いい意味で裏切られたのは、特集チームのフォントスイッチが入る瞬間だったと振り返ります。ぜひご一読ください。
MOTCチームは陰翳明朝體をデザインしたタイプフェイスデザイナーの伊藤親雄さんへのインタビュー。
「陰翳明朝體は生きづらさを感じている人に寄り添うために生まれた書体だということを知り、フォントの奥深さを感じた。文字は人に選ばれるだけでなく、人に寄り添う存在なんだということに感銘を受けた」と、企画立案時を振り返ります。
MOTCチームは何といっても、チームメイトの得意分野を掛け合わせたという凝った企画が魅力です。唯一、一般大からの参加者である中村さんがフォントからインスパイアされた小説を執筆。製版会社に樹脂凸版を発注し、活版印刷のような方法で印刷を行いました。
こうした凝った企画であるにも関わらず、限られたページの中でその背景にあるストーリーを伝えることは容易ではありませんでした。一度完成したデザイン案を大きく再構成し、制作のプロセスを詳しく説明することに。完成したページは作品の魅力が増幅されるような、重層的な表現になりました。
書体そのものの探求をする書体研究チームは「マイクロソフトが惚れたUDデジタル教科書体」という企画を担当。
学生の認知度こそ高くないものの、時代のニーズにあったUDデジタル教科書体に興味を持ち、企画を行いました。
その魅力を伝えるためには自分たちの理解が足りず、改めてリサーチを行ったところ、そのディティールから画数や字の成り立ちが読み取れる書体ということがわかりました。
「マイクロソフトの担当の方も、このフォントを見たとき一目惚れしたはずだ!」と、同社の大島さんに当時の気持ち伺うインタビューを行いました。
特集でお世話になった大溝さんのゲストトーク
各チームの振り返りはこれにて終了です。報告会のあとは FONT SWITCH MAGAZINE の特集ページに登場したグラフィックデザイナーの大溝裕さんをゲストに迎え、トークイベントを開催。美術展のポスターやWebデザインを手がける大溝さんの仕事観が語られました。
どのように仕事を獲得して行くのか、やコンペの資料までプロジェクターに投影し、実際のお仕事の裏側まで包み隠さずお話しされる姿に会場の熱が一気に上がります。
最後に、「楽しんで!」と思いのよらない投げかけにご来場された先生がたまでも大溝さんの虜になりました。
もちろん、懇親会では大溝さんは大人気。
「もっと良くなったはず」達成感と悔しさの入り混じった反省会&卒業式
トークのあとはプロジェクト参加者の打ち上げ&反省会。マネージャーの酒井さんは「冊子の完成がプロジェクトの終わりではありません。フォントの完成をONにするために、人の手に届けるところまでが重要です。そこから反応を得ることで、次に繋がっていきます」とややシビアなフィードバック。しかし、手に取った方々のアンケートを見ると約90%の方が、好意的な反応でした。
ほっと一安心した学生たちは「もっとこういう風にすれば良かった「どうすればもっと面白くなったかな」と議論を始めます。こうしたやりきれなかった思いの積み重ねが、制作のクオリティを上げていくためにもっとも大事なことではないでしょうか?
そして、いよいよ卒業式です。参加学生の好きなフォントで書かれた手づくりの卒業証書が、橋爪顧問からメンバー一人ひとりに手渡しで授与されました。
「美大生同士、学生だからこそできるコミュニケーションの方法があるはず。学生が主体となって制作し、それをフォローしていこう」と顧問の橋爪さんが語った通り、こうした思いのもと運営されてきたFONT SWITCH PROJECT。学生たちがしだいに主体的なっていく様は、スキルよりも何よりも、このプロジェクトを通して得ることができた最大の成長ではないでしょうか?
「他の大学の人たちと一緒にものづくりできたのが楽しかった」
「将来フォントに関わる仕事がしたいと考えているので、またとない良い機会でした」
と、卒業式を終えた学生たちは話してくれました。きっとここでの経験が将来いかされていくでしょう。彼らの活躍に期待です!
FONT SWITCH MAGAZINE Vol.3はこちらから読めます!