インタビュー

2022.05.16

【動画教材付き】フォントの選択肢で、子どもたちのモチベーションをUP!

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各分野で活躍されているフォントのスイッチがONになっている方々のお話を聞くインタビューシリーズ。今回お話を伺うのは、特別支援教育の研究に取り組まれている兵庫教育大学の小川修史先生です。

小川先生はいつも教育大学の学生や先生方に、資料作成のアドバイスをしているそうです。記事の最後には先生のノウハウがコンパクトにまとまったUDフォントを使って資料作成レクチャー動画、「オシャレな資料の作り方」(約10分)が視聴ができます。ぜひご活用ください

インタビュイー:
兵庫教育大学大学院学校教育研究科 生活・健康・情報系教育コース 准教授 小川修史先生
インタビュアー&ライター:
株式会社モリサワ 高田裕美(UDデジタル教科書体開発者)

小川先生のフィールドと UDフォントの活用

モリサワ 小川先生の普段のお仕事内容を教えてください。

小川先生 兵庫教育大学大学院学校 教育研究科で情報教育に従事すると共に、教育工学の分野で研究しており、主に特別支援教育(知的障害・発達障害)の領域で研究をしています。

教育工学は1950年代頃に基礎概念が形成された学問ですが、これまではインフラが整わず、理論が先行しているイメージでした。しかし、コロナの影響もあり、教育現場のタブレット活用やオンラインでの遠隔授業といった実践を実施可能なインフラがこの2年間で急速に追いついてきた印象です。例えば、動画コンテンツの配信や独自のプラットホームの構築、デジタル教材の作成など、コロナ禍における先生方の努力もあり、急速に広がりを見せています。

その中でも私が注目しているのは特別支援教育におけるICT活用です。知的・発達障害とICTの親和性は高く、学びに困難さを感じている子どもたちが ICTの活用により、学びにアクセスできるケースが多くあります。ICTを活用することで、学習に関する負担やストレスが軽減されるだけでなく、学ぶことの楽しさや学校に来ることのモチベーションが生まれる可能性が期待されます。

モリサワ 特別支援教育とICTという観点では、教育大学の学生や先生方にどんなアドバイスをされていますか?

小川先生 子どもたちに提示する教材や資料に関してアドバイスをすることが多いです。特別支援教育の観点では、子どもたちが感じる困難さに十分配慮した教材を作成することが不可欠です。

教材をどのように作ると見やすいか? 特に遠隔教育の場合、見えにくいと子どもたちが画面から離れてしまうので、教材の見えにくさ、分かりにくさは致命傷になります。どのようにフォントを選びレイアウトをすると伝わりやすいものになるのか? と教育現場でも試行錯誤が始まっています。

大学の情報教育関連の授業の中でも、教材作りのコツやフォント選択の大切さも伝えています。例えば、スライドの行間が狭く文字情報がびっしり詰まっていると、子どもたちの読む気力が薄れ学びの意欲は遠ざかってしまいますから、どうやって情報量を少なくすっきり見せるかが大切です。

※小川先生にモリサワのUDフォントを使って、約10分の資料作成レクチャー動画、「オシャレな資料の作り方」を作ってもらいました。ページ末のボタンからフォーム登録後視聴いただけます。

モチベーションを支援すること

モリサワ 小川先生のSNSではモチベーションを支援することの重要さについての発信もされていますが、どのようなきっかけで始められたのでしょうか?

小川先生 自分の中で研究テーマとしているのが、「子どもたちのモチベーションに対して合理的配慮や支援をしたい」ということです。今までは、困りごとを軽減する、障害を解消するといったネガティブなものをなくしフラットにしようという流れでしたが、それも大切な反面、それだけではダメだと感じています。つまり、子どもたちの「やりたい!」という気持ちや、「続けたい!」という意欲やモチベーションを大切にしたいのです。困難さを感じている子どもたちは、頑張っても報われない経験を積み重ねる傾向があり、意欲を生み出すことが難しいのです。だからこそ、もっと意欲やモチベーションを生み出す支援をしていく必要があると思うんです。

こうした思いがきっかけで、私はSNSの発信を始めました。子どもたちの意欲を生み出すためには、私は「選択肢」が必要だと思っています。きっかけは限局性学習症の知人の一言です。彼は「僕は本を読みたくても字を読むことができない。本を読むという選択肢がないから、本を楽しむことができない」と言ったんです。衝撃でした。そうか…… 彼には意欲につながる「選択肢」がないのだと……。

私は意欲を生み出す「選択肢」を作りたいと思い、日々研究をしています。そういう意味で、モリサワの「UDフォント」はまさに「選択肢」ですね。中でも「UDデジタル教科書体」は、限局性学習症やロービジョンなどの理由で「字を読む」という選択ができなかった方々に対して「本を読む」という選択肢を提供いただいたことに強く感謝しています。

UDデジタル教科書体の出会いと子どもたちの反応

モリサワ そのように捉えてくださる方がいらっしゃる事は、開発者として大変、励みになります。私も「UDデジタル教科書体」は「択一」でなく「選択肢」として捉えて欲しいと思っています。
小川先生の「UDデジタル教科書体」との出会いや、日頃、教育現場でどのように活用されているか?を教えてください。

小川先生 教育工学や特別支援の仕事をしているので、早い時期にそのコミュニティーで、視認性が良く読みの負担が少ない書体があると噂を聞き、すぐに購入しました。後に Windows10にも搭載されて教育現場では急速に広まっていますね。私がメリットを感じた一番のポイントは、機能性だけでなく、資料がお洒落になるということです。私が先日「UDデジタル教科書体」の画像を挙げたツイートが拡散(2.1万 いいね!)したのですが、反響で多かったのは「この書体は好きで使っていたけど、そんな経緯があるとは知らなかった」「見やすいから使っていたけど、この書体名のUDって、ユニバーサルデザインのことだったのか」というもの。ユニバーサルデザインや教科書体の先入観なしで、ユーザが使いやすいから、見やすいから、お洒落だから、可愛いから好きで自然に使っているって、本来の姿じゃないかなと思います。

そして今、研究会でも学生の資料でも街中でも「UDデジタル教科書体」を見るほどに勢いよく広がっていると感じています。デザイナーさんなど今まで拘ってフォントを使っていた人でなく、日本で一般のパソコンユーザたちがフォントに興味を持ち、フォント選択を意識する入り口になったフォントであると思いますよ。

モリサワ 教育分野でこの書体が多くの皆さんに知られるようになったのも、小川先生のように応援して広めてくださる先生方がいるお陰だと思っています。ありがとうございます!
フォントを変えて、現場の子どもたちの反応はどうでしょうか?

小川先生 子どもたちからも「メガネがなくても黒板の文字が読みやすくなった」「資料が見やすくなり集中できるようになった」などの声がありましたね。何より、フォントによって読みやすさが変わった経験をした子どもたちが先生に「フォントを変えて欲しい!」と配慮要求(セルフアドボカシー)ができるようになったことは大きいと思いますし、先生も一人の特別な子に向けた配慮の位置付けでなく、ユニバーサルデザインとして他の皆にも優しいと配慮しやすくなったように感じています。

モリサワ 何の書体であれ、子どもたちが自分の読みやすいフォントを知って、それを要求できるようになったことはとても嬉しいです。ICT化が進んで、先生に頼むのでなく自分で好きな書体を簡単に選べる時代が来るといいですね。同じ人でも、その状況や目的によって読みやすい書体は変わるし、選びたくなる書体も変わると思うので。

小川先生 モチベーションがあれば、子どもたちは多少難しくても自分でやろうとしますよ!子どもたちがフォントを好きになって欲しいですね。今後モリサワさんに期待することは、フォントの選択肢をもっと増やして、子どもたちがファッションを楽しむ感覚で、ワクワクしながら色々なフォントを選択できるような環境を作って欲しいです。

モリサワ 小川先生のお話を伺っていて、貫して子どもたちのモチベーション・意欲を大切にしていることが分かり、その活動が子どもたちの主体的な学びを支えていると共感します。小川先生自身がフォントの大切さを実感し、好きでいてくれていることが嬉しいです。

インタビューをありがとうございました!


特別支援教育におけるICT活用に、熱く取り組まれている小川先生。「教材の見えにくさ、分かりにくさは致命傷」というコメントが印象的でした。
そんな小川先生のノウハウが短くまとまったレクチャー動画「オシャレな資料の作り方」(約10分)が、以下のボタンからフォーム登録後視聴できます。ぜひみなさんの分野の活動に、ご活用ください!