インタビュー

2019.10.09

ATypI 2019 TOKYO 西塚涼子さんインタビュー

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2019年9月4日〜7日、国際タイポグラフィカンファレンス「ATypI」が行われました。
63回目となる今年は「ATypI 2019 Tokyo」と称し、初の日本での開催。記念すべき年に、モリパス部員メンバーもボランティアスタッフとして参加しました。

そして今回特別に、「ATypI 2019 Tokyo」講演をされたタイプフェイスデザイナーの西塚涼子さんに、インタビューをさせていただきました。ざっくばらんに、タイプデザインの現在についてお話いただいた様子をお届けします。

インタビュアー・記事:清水貫容、青木奏子(モリパス部員)

お仕事内容について教えてください。

アドビ システムズ株式会社でチーフタイプデザイナーをやっています。アドビの場合、日本とアメリカ本社にタイプチームがあり、両チームで協力しながら作っています。 例えば、アメリカチームの制作したデザインに合うものがあれば、それを調整して日本語に入れたり、貂明朝みたいにオリジナルでお互いに連携を取りながら作った書体もあったりします。

フォントの感性が“ON”になった瞬間を教えてください。

小学生の高学年の頃でしょうか。低学年だと「こくご」という文字が入っていますが、自分のノートを使い始めるとタイトルがないので「国語」とか「算数」を明朝の骨格を真似しながら書いたのが最初だと思います。

タイプフェイスを作る仕事があることは美大に入った後に知りました。もともとイラストレーターとかになりたいと思っていましたが、実際に大学に入ってみたら、誰かにテーマをもらうというような、つまりクライアントがいない状態で自ら沸き起こる絵を描くってことがなかなか難しかった。一方、文字をレタリングしたり書いたりする作業には没頭できて。その時から小学校の頃とリンクし始めて、職業にできたら面白いなと思い始めました。

仕事の受け方は、クライアントワークと、自分で表現のクライアントが発注する2つのタイプがあると思いますが、イラストは前者なのにタイプフェイスは後者という点が面白いなと思いました。

よく考えればイラストも同じような気もするんですけど、フォントだったらこういうシュチュエーションでこういうフォントがあったらいいなっていう自分で発注されたような気持ちに自分の中で落とし込みやすく、私としては楽だったのだと思います。

自分で使うためというよりはフォントを使ってもらいたい。絵やファインアートは自分の中で昇華していって 自分の中の表現という形になると思うのですがそういうタイプではなかったんだなって。

西塚さんにとって、フォントはちょうどいい表現方法だったんですね。

しかも、結構長く楽しめる(笑)
フォントの制作は2年から4年くらいかかる長いプロジェクトになります。私の場合は、その長い間じっくり取りかかれるということで、結構苦痛が少ないというか、合っている職業だと思っています。

モリサワフォントの中で、好きなフォントとその理由をお願いします。

A1明朝です。私が目指しているのは、フォントで簡単に組んだだけで、もうロゴはこれでいいかなと思えるような、絶妙なさじ加減のフォントを作ること。貂明朝もその1つです。 なのでA1明朝のように、ディスプレイにも、ちょっとした本文でも使用できるという書体に憧れている所はあります。

ディスプレイ書体では佐藤豊さんの墨東はかなり憧れた書体でした。ゴシックだけど、クラシックなフォルムで、漢字は既成の、例えば見出しゴシックなんかに合わせる。仮名だけカリグラフィックなスタイルもありつつも伝統的なフォルムもあって。これは本当にうまいなぁってすごく思いました。

これまでフォントを作ってきて、楽しい過程はどこですか?

スケッチの段階からプロジェクトに乗る前が一番楽しいです。数文字作って「これいけるんじゃない?」と思ったあたりが一番楽しい。

でも、この段階でいけるんじゃない?と思ったものは大抵うまくいかないんですよ(笑)
そこで一度問題が生じて、解決する時がすごく楽しいですね。

フォントの感性が“OFF”になる瞬間はありますか?
ここまで聞いていると、あまりなさそうなのですが(笑)

段々この歳になってくると、得意で続いたことっていうのは実はやっぱり自分にとって楽なことで、楽だから仕事として続くんですよ。なので普段はフォントを作って、そして週末に書道教室に通って、そこで文字の練習をやって。自分でもよくわかんない状態に陥っているんですけど、やっぱり文字に関わっていることが一番楽ですね。

あとは時々、神保町とかに行って古本あさりをします。
当時の見本帳が出回ることは少ないですが、当時の活字は古い本をみればいくらでも使われているので、内容とかどうでもいいから、使われている文字が面白い本は結構買ってきたりします。

ところで文字を知って、フォントを判別したりすると、オタク感が出てると言われたりしませんか?(笑)
有名なデザイナーさんと話すと本当に彼らは文字オタクなんですよ。「こういう感じのこういう文字が欲しいんだよね」とか「こういうの使いやすい」とか 、そう言う風に言葉をかけてくださるので、タイプデザインを勉強していくには文字オタクじゃないといけないんですよね。

また作る側の人間としてはこういう風に作りました、というのはちゃんと発信していく事は大切だと思っています。ただ、小塚明朝の小塚さんがよく言っていたんですけど、書体がみんなのところに届くには10年かかるっておっしゃっていたんですよね。今SNSだとより早い感じがありますけど、貂明朝のリリースも2年前で、それでも「貂明朝っていう書体発見した」というツイートを発見したりすると、なかなか届かないもんなんだなって思ったりします。

構想段階でどういうフォントが必要か考えると思うのですが、リリースされてから届くまで10年かかるとなると…。
今から10年前はスマホが普及する前で、難しい印象を受けます 。

私の感覚ですが、文字のサイクルはゆっくりで、モダンかクラシックかの大きな流れが10年サイクルぐらいで、ゆっくり回っているんですよね。私は今、ハイブリッドの時代になってきていると思います。

昔はファミリーは明朝から作るのが当たり前だったんです。けれど源ノ角ゴシックのときには、一番最初にゴシックを作ると決め、始まりました。スマートフォンに使うデジタルデバイス用の書体だもんね、っていう話から展開して、私も素直に受け入れていたし、ここで少し時代が変わったんだなってすごく自覚しました。

自分が知らない間に時代を変えていってる!?みたいな(笑)

明朝だからファミリーのメインの書体ということではなく、用途重視な書体に変わったんですよ。縦書き用の小説とか、ゴシックではない無機質なものでないときに使ってもらいたい書体に。だけど、昔の明朝はそうじゃなくてスタメンだったわけですよ。ゴシックはあくまでも注釈だったりとか、少しモダンに見せたいときに登場するものだったのが、いつのまにか完全に逆転していたんですよね。

技術の進化とともにフォントも変わっていくんですね。

使うデバイス、どこに一番表示させたいかという多様性に対応してきたように思います。
横線が細い明朝も欲しいし、かたや一方、横線が太い明朝も欲しい。でもそういうモダンなゴシックだけじゃなくてトラディショナルなゴシックも欲しい。つまりその場面にぴったり合わせたものが必要なんですね。今回ATypIでも紹介されていたRoleもそうですが、色々な方法に対応できるよう多様化している気がします。

最後に学生へのアドバイスを教えてください。

続けることが何と言っても一番かなって思います。好きなことは若いときに実らなくても続けていく、そして発表していくことは大事だと思っています。

特にタイプデザインの場合は、長く続ければ続けるほど後半に輝いてくる職業だと思うので、地道な努力を諦めずに続けていくことが私は大事だと思います。今凄く皆が「映え」とかSNSで反応がないとやっぱりちょっと落ち込んじゃうなんてこともあると思うんですけど、それに打ち勝って。周りに惑わされずスキルをどんどん重ねていって欲しいと思います。

タイプデザインを志す学生にも、そうでない学生にもありがたいアドバイスをいただきました。本日はありがとうございました!!