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2019.10.17

4th部会レポ:「Moji no ZINE」8チーム作品完成!8つの視点が示すフォントの多彩な魅力を発表

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1チーム4~5人で構成された8チームでフォントのZINEを制作した約3ヶ月を終え、モリパス部のメンバーによる作品発表イベントが開催されました。部内の外へはじめてZINEをプレゼンした様子をレポートします。

3つの力を学んだ部活の最終日

9月29日、イベント会場にはモリパス部メンバーのプレゼンを待ち、来場した学生たちが静かに座っていました。2019年の活動を支えてくれた、最新鋭の技術を持つ印刷会社「帆風」や紙の専門商社「竹尾」の方々も混ざり、メンバーの晴れ舞台を温かく見守っています。

観覧席の後ろにはメンバーたちが控え、作品発表がはじまる前の少し緊張した時間を過ごしています。すると、マイクにスイッチが入り、イベントは学生発表、ゲストトーク、懇親会の3部構成で行なわれるとアナウンスされました。いよいよスタートです。モリパス部の橋爪顧問が開催の挨拶を告げました。

「モリパス部は、学生メンバーで構成されています。クリエイティブに興味のある学生に向けて、フォントの感性を“ON”にすることを目的にしたアウトプットを目指しました。とはいえ、参加してくれた学生には、何かを得ていただきたい。そこで3つの力がつくように活動を進めてきました。それは、チームワーク力、実践的なデザイン力、伝える力の3つです」

この日まで、自分たちが何を考えてどう伝えたいのかを、チームで形づくり、発表することを繰り返してきたメンバーにとって、作品発表イベントはこの3つの力を披露する機会でもありました。

フォントの魅力を多彩に伝えた作品発表

計8チームの作品発表は、フォントという同じ対象を扱っていても、魅力を伝えるメンバーが変われば、表現されるフォントの魅力は多彩になることを伝えてくれるものでした。各チーム限定100部制作されたZINEに目を向けてもらいつつ、自分たちのプレゼンを聞いてくれる観覧席の来場者に向けて、この3ヶ月の成果と想いを伝えていきます。

あるチームは、フォントのつくりかたや制作者にフォーカスしてZINEを編集。「魂は細部に宿る」という言葉を信じて、フォントのエレメントに注目したZINEに仕上げました。フォントについて詳しくない人にも接してもらいやすく、巻頭企画を漫画にしたことやページをめくるごとに制作者の想いへとつながっていく構成にしたことをプレゼンすると、観覧席の来場者も納得した表情でZINEに目を通してくれました。

また、あるチームは、フォントを扱うことに長けたクリエイターにフォーカスしてZINEを編集。情報を見せるためのフォントには、読者の感性を魅了する味わいがあることを切り口に、ひとりのデザイナーを深掘りするインタビューを届けました。使い手の数だけ異なる魅力を放つフォントだからこそ、このZINEではインタビュイーの個性を大事にすることを重視。大切にした部分を伝えるメンバーの言葉を受けて、手元のZINEを見返す人たちの姿が印象的でした。

その他、フォントによって表現できることを掘り下げたZINEやフォントが生まれてきた歴史をたどるZINEなどを発表。緊張感が漂うなかでスタートしたプレゼンですが、要所、要所で観覧席に笑い声が上がり、徐々に緊張が解けて、メンバーの人となりも伝わっていきました。各チーム、プレゼンを終えて席に戻る際の表情は、頬がゆるみ、満足感を覗かせています。

フォントの感性で新しいつながりへ

作品発表イベントの後半は、部会 第3回でメンバーにアドバイスを贈ってくれたアートディレクターのカイシトモヤさんを迎えるゲストトークです。大学で教鞭を振るうカイシさんは、各チームのZINEの魅力をカイシさん目線で伝えるレビューやフォントにまつわるデザインレクチャーを講義風に話してくれました。観覧席のみなさまに混ざり、モリパス部のメンバーもカイシさんの教えをメモします。最終日でも、メンバーがフォントのクリエイティブを学ぶ感性は“ON”でした。

2016年からはじまったモリパス部も今回で4期の修了です。4期では、観覧にお越しくださった方々とメンバーが交流する時間も設けました。モリパス部員は、初めて知り合った人たちとも今日という日を振り返り、フォントを通じて新しい縁を得る機会につなげていました。また、知人や友人を招待し、モリパス部で学んだことを共有したメンバーの中には、私も参加してみたいという声をもらう一幕もありました。

それは、約3ヶ月の活動を通して、フォントへの興味・関心を感性の高まりに移していくことができたメンバーが、はじめて会った人ともフォントの感性で通じ合えるクリエイターの仲間入りを果たしたことを示す光景です。翌日からはモリパス部の元メンバーに変わります。それは、この部活での経験をクリエイター人生の糧のひとつにして、これからもフォントの魅力を引き出せるメンバーたちのクリエイティブは続いていくことを意味します。

このメンバーなら大丈夫。そう、顧問たちも思える姿になって、メンバーは巣立っていきました。

モリパス部 部会 第3回に参加して、メンバーにアドバイスを贈ったアートディレクターのカイシトモヤさん。作品発表イベントでは、ゲストトークに登壇し、Moji no ZINEやフォントを活用するデザインについて話してくれました。

プロセスがよく設計されて大成功

もしもMoji no ZINEというプログラムを採点するとしたら? ふだん、大学で教鞭を振るうカイシさんは、ゲストトークに大学モードで臨み、話し始めました。

「大成功だと思います、“大”を10個つけてもいいくらい! ぼくは大学で、デザインプロセスのコミュニケーションを研究しているのですが、このプログラムでは、社会に出たあとに体験する、いろんな人の目に触れてアウトプットが完成するという、実践的なデザインのプロセスを体験することができていました。

そして、モリサワさんと学生が一緒に取り組んだことも、大成功の要因です。モリサワさんは、ふだん、メンバーのような学生たちに向けてもフォント関連のコミュニケーションを取っています。それが、このプログラムでは、学生メンバーから他の学生へ向けてコミュニケーションを取ることに挑みました。

ふだん情報の受け手だったメンバーがフォントに向ける視点は、チームごとに異なっていた分、フォントのつくり手であるモリサワさんと使い手であるメンバーのフォントに向ける視点にも良いズレが表れていて、このプログラムでフォントを伝えるコミュニケーションをより面白くしていました」

カイシさんが気づいた8つのZINEの魅力

各チームのZINEも、カイシさんの視点を通すとフォントの繊細な魅力を表していることがわかっていきます。

「最初にプレゼンしてくれたチーム(目からウロコ。)は、1つのZINEを3つのコンテンツに切り分けた方法が面白い。一般大学生に接しやすい漫画という企画から、使われ方を伝えるフォント制作者の協力を得た企画まで、コミュニケーションを活性化する構成に感心しました。次のチーム(フォント熱が収まらないっ!!!)にもまた違う魅力があって。フォント制作のプロセスをすごろくで表現してしまう。そういうアウトプットは学生メンバーだからこそ、表現できたものですし、新しくフォントに興味を持つ人にも届きそうです。

3つ目のチームのZINE(魅る文字)は、一番楽しんで読めたものかもしれません。服部一成さんはいろんな媒体でインタビューに答えている方ですが、これまで読んだ中で一番わかりやすい内容になっていました。一流のインタビュアーや編集者でも、聞き出せない話になっていたんじゃないかな。

4チーム目のZINE(フォントとブランド、のはなし。)には、原研哉さんのインタビューも載っていましたね。長い文章が続くZINEでしたが、網点や紙の白さを表現するデザインで、綺麗に仕上がっていましたし、フォント開発の裏側まで話してくれている良い内容でした。

次のチーム(もしもじ)は一転、企画の発想が面白くて。紙媒体にあえてSNSをモチーフにした内容を移植する感覚が時代に合っていると思いましたし、スマホの画面に見立てたページではバッテリー残量が少しずつ減っていくという細かいこだわりまで感じられました」

ZINEを褒める言葉は淀みなく続きます。心から、ZINEの魅力を受け取ってくれた様子が溢れていました。

「6つ目のチーム(字面スケッチ)は、美術系の学生がいない中、これほどのZINEをデザインしたことに拍手を贈りたい。新しい発想の企画を、淡いピンクのNTラシャ ホワイトローズという紙に印刷して、綺麗なZINEに仕上げています。次のチーム(AURA)でもデザインに感心して。4つの物語にメンバーがフォントを活かした装丁をつくったものは、どれもフォントの美しさを損なわない仕上がりでした。

最後のチーム(文字フェチ)にまでなると、フォントへの興味・関心がフェチになっている様子を隠していないところがすごい。8種類の切り口それぞれをミクロに特化して分析した内容と、ジャンプ率を活かした紙面デザインで大迫力のZINEになっていましたよ。

そのような感じで、どれもすごく良かったです。こんなに視点が重ならず、定着できたから、つくり手と使い手の間に良いコミュニケーションを生むZINEができたんだと思います」

カイシトモヤ流タイポグラフィの基本

ゲストトークの後半は、カイシさんの仕事を例にフォントを活かしたデザインの話を進めました。ふだん、シンプルなフォントを好んで利用し、フォント制作者のデザインをあまり崩さないで使用することが多いカイシさんは、タイポグラフィの本質を2つに分けて意識しているようです。

「タイポグラフィの本質は、『①どんな文字を』『②どのように並べるか』ということなんです。①のように、フォント選びを気にかける方は多いですが、②を意識すると、タイポグラフィの可能性は無限に広がります。シンプルなフォントでも、ゲシュタルト(形態質)を意識して並べるだけで、ロゴっぽくデザインすることもできると思うんですよ」

時には、フォントのかすれ具合を引き出すような工夫をデザインに取り入れても、カイシさんがフォントに向き合う際の基本は変わりません。その基本になる考えを教えてくれた、フォントを活かすデザインの話の後は、観覧席から寄せられた質問に答えていきました。

Q.5つ目のチームのZINEには、読んだ後にまちでフォントを見たらウズウズしてしまうくらい興味を持ってほしいという目標がありました。カイシさんも、まちでフォントを見かけた際、直したくなってしまうことはありますか?

「実は、文字詰めが気になってしまうことはあります。もしもエスパーの力を手に入れることができたら、世界中の看板の文字詰めを修正する力がほしいくらい(笑)プロがデザインしたものでも、そう感じることがある一方で、それ以外の人がつくったものに驚かされることもあって。喫茶店の看板など本職ではない、市井の人が熱量を持って書いたりつくったりする文字に、ぐっとくるから面白いとも思っています」

Q.近頃、ブランドのロゴはセリフにするかサンセリフにするかという話題が流行っています。カイシさんはデザインの流行とどのように距離を取っていますか?

「デザインという、ある一定範囲に興味関心を持つ人たちの間で流行していることは確かにあって、流行の逆を意識したり、流行の先進性をどのくらい受け入れるか考えたりすることはあります。感度が高い相手に向けたデザインと、そうでない人々に向けたデザインでは、どちらが良い悪いではなく、ニーズが異なることを意識していて、デザイナーはその感度を常に高めていくことが大事です」

メンバーのつくったZINEの話にはじまり、自身の仕事を踏まえて、観覧席とのコミュニケーションを築いたカイシさんの講義が終わる頃、会場中のフォントへの意識はより高まったようです。その証拠に、続く懇親会の時間も、会場のそこここでフォントの会話が盛り上がりを見せていました。