8月21日、『PRTIMES×モリサワ 自治体情報発信セミナー「伝える」から「伝わる」へ』をオンラインで開催しました。どのようなトークが繰り広げられたのか、当日の模様をお伝えします。
第一部:これから必要な情報のユニバーサルデザイン化とSDGs ~コロナ禍に対応するためのデザイン事例~
講師
東京都中野区広報アドバイザー / 早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
佐久間 智之氏
おしゃれさよりも見やすさ
埼玉県三芳町元職員の佐久間さんは、独学でデザインを習得。手掛けた『広報みよし』は、広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞しました。現在は中野区広報アドバイザーなど、さまざまな分野で活躍されています。
そんな佐久間さんがまず教えてくれたのは、「ナッジ理論」というもの。これは「小さなきっかけで人の行動を変える戦略」で、赤や黄の目立つ色を使った封書を送ることで納税滞納を防止するなど、自治体でも幅広く応用できそうです。
次に公務員に必要なデザインマインドとして、「おしゃれさよりも、見やすさを意識すべきです」とやさしいトーンで語りかける佐久間さん。ご自身も、たとえば広報物の文章を書く際は、中学生でもわかる表現を意識しているそうです。さらに、色はたくさん使わないのもポイントなのだそう。たとえ1色でも濃度を変えれば100色になるため、ベース色を1つ決めてそれを軸に色を展開すれば、統一感が出て見やすさが増すといいます。
今後はデジタルを有効活用すべき
コロナ禍の情報発信で求められるのが、デジタル活用です。中野区では、ポスターにQRコードを貼ってYouTubeへ誘導。「画像+動画」のクロスメディアで市民に情報を伝達しています。また、たとえば成人式の様子を伝える際、誌面だと掲載できる画像に限りがありますが、デジタル媒体を利用すればあますことなく紹介することが可能です。
もちろんデジタルに馴染みの薄い人もいるため、引き続きチラシで告知したり、災害時には防災無線で呼びかけるといったことも不可欠。大切なのは、情報弱者をつくらないようさまざまな媒体を駆使して「情報のユニバーサルデザイン(UD)化」に配慮することです。
最後に佐久間さんは「伝える」ではなく、「伝わる」が重要だと解説。伝わらないものをつくってしまうと窓口や電話での応対が増え、市民にも担当者にも余計な負荷がかかります。佐久間さんがまだ三芳町に在籍していた昨年の残業時間は、なんと“ゼロ”だったのだそう。「伝わるものを意識すれば、作業も効率化できますよ!」とにこやかに締めくくってくれました。
第二部:パネルディスカッション ~「伝わる」自治体情報発信の実践と課題~
松戸市 総合政策部広報広聴課 シティプロモーション担当室 斎藤 啓祐氏
広島県 総務局 ブランド・コミュニケーション戦略チーム 瀬戸 潤一郎氏
モデレーター 佐久間 智之氏
松戸市と広島県のUD化とSDGsの取り組み
第二部では、パネルディスカッションがおこなわれました。モデレーターを務めたのは佐久間さん。「情報のUD化とSDGsの取り組みを教えてください」との佐久間さんの投げかけについて、松戸市の斎藤さんは「ホームページにおいて、日本語での音声読み上げと6か国語対応が完了し、現在はUDに対応できるよう取り組み中です」と答えました。
一方、広島県の瀬戸さんは「私たちはSDGsの「⑪住み続けられるまちづくり」を意識し、音声読み上げや多言語機能を搭載しているモリサワのアプリ「Catalog Pocket」を使い、多言語で情報発信をしています」と述べました。またTVや新聞を見ない若年層に向け、広島県では今年からTikTokを開始。平和記念式典をライブ配信したところ、約46,000人が視聴。そのうち9割が24歳未満だったとのことで、「やってよかったです」と笑みをこぼしていました。
TikTokの有用性が明らかに
今度は無料で利用できるSNSに話題が移り、松戸市ではTwitter、Facebook、Instagramを利用中とのこと。佐久間さんはすかさず「内部決済は必要?」「スマホは自前?」と質問し、斎藤さんは内部決済を取る必要があること、またスマホではなくタブレットが市から支給されていると伝えました。
広島県では、先ほど紹介があったようにTikTokを開始したほか、Twitter、Facebook、LINEを活用。平成30年7月豪雨では、Twitterを1日に20〜30本もアップしていたそうです。「決裁手続を工夫しながら、重要度の高いものをタイムリーに配信することを心がけていました」と瀬戸さんは振り返っていました。
TikTokは情報漏洩の懸念などが世界的に広がっていますが、「TikTokに関する報道が増えるとともに問い合わせも増えたものの、そこまで多くはありません。また日本法人のバイトダンス(株)に問い合わせたところ、「情報漏洩の問題はない」との回答をいただきました。本県としてもTikTok専用のスマホを用意するなど、リスク回避に努めています」(瀬戸さん)
若者への情報伝達手段としてTikTokに期待を寄せる広島県としては、今後も運用を続けていきたいとしながらも、政府の方針には従うとのことでした。「TikTokの運用で迷っている自治体が、相談してもいいですか(笑)?」との佐久間さんの問いかけに、瀬戸さんは「待っています(笑)!」と力強く答えていました。
ペイドメディアを使うことも効果的
続いては、料金を支払って利用する「ペイドメディア」の話題に。平成30年7月豪雨では、外国人観光客や外国人在住者など、広島県内に滞在中の多くの外国人に情報が行き届きかないことが判明。課題感を感じていたところ、モリサワのCatalog Pocketと出会ったといいます。多言語で翻訳できることはもちろん、専用アプリをダウンロードしなくても情報閲覧が可能な点などに魅力を感じ、昨年11月から利用を開始。Twitterに「やさしい日本語」でCatalog Pocketへの誘導文とURLを掲載し、クリックすると多言語表示できるようにしました。
外国人への配慮も非常に重要だと大きくうなずきつつ、「「やさしい日本語」って何ですか?」と問いかける佐久間さん。それに対し瀬戸さんは「ですます調で、なるべく文章を短くすることです」と説明しました。
参加者からは「「やさしい日本語」の導入で苦労した点は?」という質問がチャットで寄せられ、「「やさしい日本語」の定義に苦労しました。ネットや本で勉強した結果、ですます調にたどり着いたんです」と答えていました。
松戸市ではペイドメディアとして「PR TIMES」を利用しているとのこと。コロナ禍では「感染拡大に伴う人権尊重緊急宣言」を出し、新型コロナに感染した人や家族への誹謗中傷はやめようと訴えたといいます。「定例記者会見で本宣言について告知したのですが、反応はいまひとつでした。そこで翌日、PR TIMESでプレスリリースを流したところ、ホームページのPV数は約倍となり、大きな反響を得ることができました」(斎藤さん)
約1時間にわたるパネルディスカッションは非常に充実していて、あっという間に終了の時間に。ほかにも参加者からは多くの質問が寄せられ、注目度の高さがうかがえました。