インタビュー

2022.05.26

タイ赴任で外国人になってわかった「文字を読む」むずかしさ、初学習者にUDデジタル教科書体を勧める理由

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北海道大学 大学院メディア・コミュニケーション研究院 
准教授 伊藤 孝行氏

各分野で活躍されている方々のフォントのスイッチがONになった瞬間を語ってもらうインタビューシリーズ。今回お話を伺うのは、北海道大学で世界各国から来日する留学生に対する日本語教育のコーディネーターを務めている伊藤 孝行さん。 

UDデジタル教科書体を、「日本語を勉強する初級のフォントにちょうど良い」と感じていただいています。日本語学習の場でフォントに心を向けたきっかけは、何だったのでしょうか? 

自分が経験したからこそ感じる、日本語教育現場における文字の大切さ

伊藤先生の経歴や普段のお仕事の内容を教えて下さい

伊藤 現在所属している北海道大学には、北海道大学現代日本学プログラムという、外国人留学生を対象とした4年間の学士課程プログラムがあります。このプログラムには、日本語能力が十分でない学生に対して、入学前の数か月を使って日本語教育を行う予備課程があり、予備課程を経て北海道大学の正規課程の学生として学んでいます。
私はその北海道大学現代日本学プログラムで、正規課程の日本語科目コーディネーターを務めています。

海外への赴任経験があるとのことですが
ご自身が異国の地で感じた、外国人の立場になった時の経験を教えて下さい

伊藤 以前、タイのタイ国立タマサート大学教養学部日本語学科で外国人専任講師として4年ほど勤務していた時の実体験なのですが、バスの行き先表示を確認する時にとても苦労した経験があります。

当時、タイで利用していたバスの行き先表示は、様々なデザインのフォントで表記されていました。日本語で言えばバスごとに、ゴシック体や明朝体、ポップ体など、様々なフォントで表記されている状態です。
タイ語が母語ではない私にとっては目に見えている文字が、元々の文字による違いなのか、フォントのデザインによる違いなのかを、動いているバスを見て瞬時に読み取り理解することは、とても難しかったです。なかには、フォントのデザインによって違う文字でも形が酷似して見える文字もありました。

でも、毎日苦労していたフォントによる経験が、フォントを相手に合わせて選ぶことが大切だと感じる今の考え方に繋がっているので、良い経験ができたと思っています。

日本語教育に携わる中で、フォントに関して感じる課題は何ですか?

伊藤 日本語教育のなかでも、特に日本語を学び始めたばかりの人にとっては、フォントがとても大切だと感じています。

以前、曜日や月をやっと覚えたばかりというような段階の、初級クラスを担当している先生が作成した配付プリントがポップ体で作られているのを見たことがあります。

その時に、作成された先生としては「かわいい」と感じたため選んだと言っていましたが、これは作成者の立場で作られた資料だと感じてしまいました。もちろん、日本語のさまざまなフォントを知ることも大切なことではありますが……

文字が読みにくいと、見る人によっては、負担やストレスになったり、日本語教育の現場では最悪の場合、フォントの影響で何が書いてあるのか分からなかったり、学習意欲を下げてしまう可能性があります。そうなってしまうと、せっかく学生の事を思って資料を作ったにもかかわらず、その先生の労力も無駄になってしまいます。学習者の立場になってフォントを選ぶことは、日本語教育の中ではとても重要なことなのではないかと感じました。

日本語教育の現場における、UDフォントのメリット

UDフォントは学生にも、教師にもメリットがあるとのことですが、どのような場面でそう感じたのでしょうか?

伊藤 留学生はまっさらな状態で、なんの疑いもなく教えた内容を吸収しようとするので、手書きとは異なる、デザイン性の強いフォントを使用すると、それもそのまま吸収しようとして、怖いと感じることがあります。

北海道大学現代日本学プログラムの特徴としては、幅広い国籍の学生が在籍しているのが特徴です。そのため、漢字圏の出身ではない学生も多く、フォントの形状が、元々の文字による違いなのか、デザインによるものなのかを判断することが難しい学生も少なくありません。

そのため、字形が理解しやすく、読みやすく、見やすいUDデジタル教科書体は、日本語を勉強する初級のフォントとしてはちょうど良いと感じています。

また、初めは資料の受け手のことを考えて使い始めたUDデジタル教科書体でしたが、使い続けていると作っている人にも便利で、自分の気分も良くなるという事に気が付きました。

見やすいという事はもちろんですが、学会や小規模な発表の場でも私の場合、留学生もその場にいることが多いので、彼らがストレスなく読めていると思うと、とても嬉しいです。

UDフォントはどのような場面で使用して、今後どんなところで広めていきたいですか?

伊藤 現在は特に何か指定がない限りは、授業の資料や研究資料など、自身が作成する全ての資料にUDデジタル教科書体を使用するようにしています。また、UDフォントの活用が広がって欲しいという思いから、UD FONTマークも発表資料につけるようになりました。

伊藤先生が作成し、活用しているスライド

※UD FONTマークをご利用になりたい方は、こちらからダウンロード可能です

そして、学生は様々なフォントの中で学んでいて、それがストレスにならなければいいなあと思っています。学内の案内表示や資料などにも、日本語を母語としない学生の立場にも配慮したフォントを選ぶという考え方が広まれば、それもまたグローバル化につながると思います。

また、学内だけでなく自治体の方にも、日本語が母語ではない方々に対して、フォント選びが大切であることをお伝えできればと思っています。


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