インタビュー

2018.02.08

武蔵野美術大学 森山明子 教授インタビュー

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武蔵野美術大学
デザイン情報学科

森山明子 教授

Q.どんな授業を担当していますか?

プリントメディア系の編集についての基礎演習、演習科目が多いです。

講義科目は、日本のデザイン系ではほとんど科目がない日本デザイン史、日本のデザイン文化論、デザインの哲学などを学部と大学院で担当しています。

Q.フォントの感性が“ON”になった瞬間

私は、グラフィックデザイナーを志向したことはありません。小さいときから書籍は好きで、学生の時も雑誌よりも書籍を手にとることが多かった。ところが、私が大学を卒業する年に杉浦康平さんのデザインで『エピステーメー』という雑誌が創刊になりました。杉浦さんの雑誌デザインの中でも、工作舎の『遊』という雑誌と並んで歴史に残るものなのですが、その『エピステーメー』を手にとったときに、なんという雑誌の宇宙なのだろうかと思いました。

タイポグラフィーって「フォント」というものと、もう少し広い意味の「書籍の形成術」という、2つがありますよね。その意味ではデザイン系のテーマとは限らないようです。

私にとってフォントは、書籍形成術としてのタイポグラフィーの一部ですので「どの書体が」というそういうものではありません。私が10代から大学を卒業するまでに好んでみていた本棚にある書籍が、実は杉浦さんのデザインのものであるということを後でいろいろと気づき、そこで書籍と雑誌ごとの書体の魅力を意識しましたね。

あと、雑誌の編集者になって、田中一光さんの「光朝」に出会いました。そのころは田中一光さんにも取材に応じていただいていました。グラフィックデザイナーが書体を作ろうとしたのではないのですが、長い経験の中で、それがフォントになる。ということに感動しましたね。

 

私の編著書で依頼したデザイナーのラインナップが、「フォント思考・エディトリアル思考」の表れと言えるかもしれません。書籍形成術としてのタイポグラフィーについて、いわゆる書体の冒険をする、あるいは書体に高い見識のある方ばかりです。グラフィックデザインは、タイポグラフィーに意識的でない限り、いいものは成り立たない。そういう感覚を持っています。

それは学生でも同じです。タイトル、テキスト、タイポグラフィーの3点セットがないと。今、卒業研究で「このタイトルはあなたが考えていること、ないしはあなたが作ったものをまったく表現していないのでないか」ということを言うのが私の役なんですけど。タイトルが決まらないってことは、コンセプトがぶれていますよね。タイトルが決まると同時にデザイン、書体が決まっているはずです。

エディトリアルデザイナーは、半分は編集者なんです。編集とデザインって少なくとも言語が絡むメディアに関して言えば、ほとんど重なっていて、重なっていないところがちょっとある。だから似てるんです、エディターとデザイナーって。映像などはまた少し別という気がしますが。

Q.先生から見たこの学校の学生って?

この世の中には、エディトリアル系のデザインに詳しい編集者が少なく、文章というものについてものすごく見識のあるデザイナーも実は少ないです。大げさにいえば、それがこの国の出版文化のレベルを上げることを阻害していると思っていました。

私は元々デザイナーではなくて、ライター・編集者です。デザイン情報学科に入った学生の多くはデザイン造形表現系の入試で入ってきていますが、このデザインができる学生にライティングというものを装置することができれば、相当レベルの高い編集物ができあがる。そうした経験を経て、エディターになってもいいし、デザイナーになってもいい。そういうことをしたいと思い、私はこの大学に来ました。

多くの学生が「文章は苦手なんです」と言いますが、少し訓練すると実は苦手ではないということが多いです。私が授業で最初にやるのは、聞いたことをそのままテキストにする、日本語のディクテーション。「分かっているんだけど指の先から文字が出ないんですよ」と最初はなかなかできないのですが、3回くらいやっていると「あ、でてきます」っていう感想があったりして。みんな信じていないんですけど、テキストライティングにも長けた学生が何割かはいます。形をコントロールできる人は原則抽象能力が高く、言語とはそもそも抽象的な能力なので「造形ができる人は、ちょっと訓練すると言語も得意なのではないか」という仮説を持っています。

課題でも、形ができていると中身はほとんどいいんですよ。なぜなら自分がテキストを書いていると、どういう形にしようかと頭の中にあるわけですから。中身がいいかげんだと、どんなにデザインしても、大したことにならないわけです。

私は自分がデザイナーではないので、デザイン系の授業を楽しんでいます。この学科はそういう学科で、IT(インフォメーションテクノロジー)の専門、マーケティングの専門といったようにデザイナーではない専門家もいます。私が学生に伝えているのも、最低限2つのスキルを装置して出ていってほしいということです。「これしかできません」だとちょっと状況が悪くなったときに本当に困ると思うんです。例えば、プログラミングができてエディトリアルもできれば、メディアがどんなに変わっても対応できる。というように、能力も思考も楕円であれば、社会が大きく変わったときにその能力が助け合って対応できると思っています。

Q.スイッチが「OFF」になる瞬間

こういう職業で、ONとOFFって無いんじゃないでしょうか。寝ている時はOFFかな。

心を平和にしたいときは時代小説を読んだりします。時代小説って登場人物に品性があって、風景描写も美しい。教養小説のような気がしています。

Q.これからチャレンジしたいこと、興味のあること

今はふたつですね。

ひとつは、「言語」というものが「声」になることに興味を持っています。著書が読者にどう読まれているかは実感しにくいのですが、試みに書いた脚本では、キャストになる方々が瞬時に覚えて、声に出すということになりますよね。それってすごいことだなと思うんです。そんなわけで、パフォーマンスになりうる言語に興味を持って、ここのところ取り組んでいます。

ふたつめ。これは、言ってしまうとやらなくちゃいけないから、どうしましょう。(笑)

日本美術史は1900年のパリ万博を契機にまずフランス語で出されたようです。ですが、日本にはまだ、通史としてのデザイン史がありません。デザインに対する共通認識をもつための通史がないのは問題ですよね。共同監修・共著の『カラー版 日本デザイン史』もそんな問題意識からでしたが、それは導入編。でもハードルはとても高くて、力不足を自覚してます。

※本記事は2018年時点の情報です