東京藝術大学 デザイン科
松下計先生
藤崎圭一郎先生
学校コラボ企画で紹介している、フリーマガジン『MOZ』ですが、メインで学生のご指導に当たるのは、東京藝術大学の松下先生と藤崎先生。
今日は、このお二人のインタビューをお届けします!
Q.どんな授業を担当していますか?
松下先生
大学院は視覚伝達研究室なんですが、学部の学生には、基礎的なデザインの考え方を教えています。専門のジャンルに分かれる一歩前の基礎と言えば良いかな。院生には、僕の専門分野、視覚伝達をがっつりやってます。
藝大は、人数が少ないから、全教員で学部生全員を教えるし、院生になったら教授の研究室で専門分野に分かれます。
藤崎先生
僕の学部での授業に(学部)で「調べる」というのがあります。
今回は「荒川・隅田川水系」という課題を出しました。テーマは出すけれどアウトプットは自由です。藝大の課題はほとんど、ポスターの課題、プロダクトの課題ではなくテーマに合わせて、自分でアウトプットを考える……。
松下先生
いわゆるメディアフリーです!
藤崎先生
「調べる」ってずるい課題で(笑)、作り方も調べてもらいます!
でも、デザインにおいて作り方を調べることは、とても重要。だって、今習ったことが20年後も通用するなんて誰もわからない。20年後も活躍できる子を育てるには、作り方を自分で探しだせるようにしておく必要があると思います。
Q.フォントの感性が“ON”になった瞬間
松下先生
院生になってからですね。
一言で言うと、周りの大人から、「美味しいから食ってみろ」と言われたといえば良いかな?当時、僕の先生は松永真氏・福田繁雄氏・佐藤晃一氏だったから、皆、書体使いのプロでした。ある時、松永さんの年鑑に載っていたポスターがどんな文字サイズでどうやって組んでいるのか分からなかったので、B全(B1)に拡大印刷して、書体の級数を測りまくったことがあって、その時こう思いました。
「あー、松永真には勝てないわぁ。」
本当に、細かく、書体でいろんな事やってるんだもん。詰めたり混植したり…レベルの高さを知って落胆したけれど、その時間は無駄ではなく、杉浦康平のある作品には、7書体混植してんだな…ってわかるようになってて、目を養うことができました。
大学院という場が“ON”にさせてくれたんですね。
藤崎先生
『デザインの現場』の編集に携わってからですね。
上智大学のドイツ語専攻時代では、書体にたくさんの種類があることすら知らなかった。
アートディレクターの中垣信夫氏(以後、中垣さん)ご指定で見出しには四谷のモリヤマ写植さんを、本文は凸版印刷を利用していてその現場で目を肥やしました。特に、凸版印刷への出張校正は今でも鮮明に覚えています。
出張校正は、最後に、テキスト修正できるタイミングなんです。だけど最後だから、もう写植オペレーターいない。そうなると自分たちで、手で直さなきゃならないわけです。これを手術といっていました。
過去の号で打った写植をクッキーの缶などに保管しておいて、間違えがあると、文字を缶カンから探し出して、ピンセットで文字を切り貼りしていた。でも、手先の不器用な僕なんかがやると字詰めなどグチャグチャになって、字を並べる作業がいかに大変なのか、気を使わなきゃいけないのか身にしみました。
Q.好きなモリサワフォントとその理由
松下先生
リュウミンです。
困ったら、リュウミン。駆け出しのデザイナーの時は、とにかくお金がないから書体見本帳から吟味に吟味を重ねて書体を選び、写植屋に棒打ち(※)を頼んでました。でも、時々当てが外れて、棒打ち代がパーになって、がっかりなんて事や、
版下を作っている時に「一文字」床に落としちゃって、スタッフみんなで、消えた「一文字」を這って探す…なんて日常茶飯事だった。
苦労が多い分、文字を手で触ってきた感覚があるからこそ書体が体に入っているんだと思います。そういった意味で、体に入っているのがリュウミンです。
リュウミンが俺を呼んでいる!って、気持ちになります。
タイプバンクのTBゴシックも大好きで、他の書体をたくさん試したあげくTBゴシックに戻ることもしばしばです。※写植や活字で書体、字間、行間、字詰め、大きさだけを決めて、行数は成り行きで打ったり、組んだりするもの。
藤崎先生
僕は編集者で出版物を自分で作っていないから、デザイナーに任せていますね。字詰めや本文の組みの目は学生よりも自信があるけど、書体はデザイナーに任せてます。
あっ、でも竹は好き。作った竹下さんが好き(笑)。
Q.先生から見たこの学校の学生って?
松下先生
良い意味でも、悪い意味でもバラバラだと思います。
最近思うことは、自由って難しいらしいんです。だからあえて制約やオーダーを与えてみるんです。すると、自分で自由を取りに行けるんですよね。
藤崎先生
確かに、バラバラ。
藝大デザイン科の学生は藝大に入りたいからきていて、デザイナー志望でない子もいるんです。だから、デザインを教えづらい。でもそのバラバラってのは、良い点でもあり、魅力的でもあるんです。正直いって、魅力のある学生がたくさんいるから定年になる67歳まで勤めようかと思っています。
この学校と関わり始めたのは、法政の非常勤で松下先生さんと一緒にDAGODAというフリーペーパーを一緒に作っていた時です。
その時、初めて「滝ゼミ」というのに参加しました。そしたら、流しそうめんをしよう!ってことになったんです。見ていたら、自分たちで山から青竹を伐り出してきて、流しそうめんをゼロから作り始めたんです。(笑)
あー、この子たちは材料や道具を作るところからアウトプットまで、こだわる事が身についているんだ。と感心したのを覚えています。
「〇〇がないから作れません。」って子はいないから、授業でもプロジェクトでも教えているというよりかは、一緒に仕事している感覚。
MOZでも、毎号特集のテーマは僕が出します。すると、学生が考えて答えを持ってくる、そして僕も考えて、高みを目指していく。そんな作業を共にできるのは楽しいです。
Q.スイッチが「OFF」になる瞬間
松下先生
ひと山越えた時。
だいたい、山と山が接近しているので瞬間的に切り替えられるためには食い物が一番。やっぱり、体の中に入れると即効性がありますね。
藤崎先生
結構、寝られるので寝ること!
最近は水泳していて(ほぼ毎日)動くと、体も頭も軽くなるし、寝られる。働き方改革のモデルのような生活!
Q.これからチャレンジしたいこと、興味のあること
松下先生
就任10年目になりました。
最初は自分の仕事を削ってまでここにくる理由を探していて、やっぱり、国費を使っているからには、最強にレベルの高い人材を作ることだと思っていました。けれど、縦軸のレベルは教えるものではなく、自分で高めていくものなんだと、この10年で気づくことができました。そして、横軸のデザインの領域を押し広げることが自分がやらなきゃいけない事だと今は思っています。
企業や自治体とのプロジェクトが多いのですが、企業は自分達の今までの価値を持ちつつ新しい市場に向かわねばなりませんが、なかなか怖くて手が出せない。うまくゆくのか否かはビジョンを共有することだと思っていて、そここそが藝大が担うポイントだと思うんです。
そこを担うのが、自分の使命ですね。
藤崎先生
藝大生は、ものづくりの姿勢は素晴らしく、表現力はあるが、クリエイティビティーは実は別物で、藝大生だからと行って、パラダイムシフトを引き起こすくらいの革新的な価値創造ができる力を持っているとは限らない。
でも、ポテンシャルはあると思うのです。
絵を書くことやモノを作るのが大好きで大学にきた美大生は自分の身体感覚に寄り添って、感情と論理を結びつける力を持っています。
そのポテンシャルを引き出すことがテーマですね。
多分、それには批評的な思考が必要だと思いっていて、クリティカルシンキングを育てることで解決になるのではと考えています。
内省的な自己表現ではなく、世の中に流れる様々な文脈を感知して、それを自分個人の文脈つまり自分の経験や身体感覚と結びつけることによって、社会を変えるくらいの創造性を発現することに繋がるのではないか……と。そうなると、ますます藝大・美大のデザインは必要となると思います!
お二人のタイポグラフィへの熱い思いに始まってこれからのデザインのあり方まで語っていただけました。MOZプレゼンの様子も記事に上がっているので、ご確認ください♪