インタビュー

2019.02.22

多摩美術大学 阿部先生・守先先生・竹下先生・佐賀先生インタビュー

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 多摩美術大学 グラフィックデザイン科
阿部 宏史 先生
守先 正 先生
竹下 直幸 先生
佐賀 一郎 先生

 

多摩美術大学のグラフィックデザイン学科にて12年生のタイポグラフィーの基礎授業を担当されている(写真左から)阿部宏史先生、守先正先生、竹下直幸先生、佐賀一郎先生。
本日は、こちらの4名の先生方にお話を伺いました。

 Q.フォントの感性が“ON”になった瞬間

佐賀先生

女子美術大学の大学院に所属してからです。森啓先生に和文タイプとタイポグラフィの歴史を教わるようになってからだと思います。

2004年に女子美でタイポグラフィのシンポジウムと展覧会があって、森先生の下で大学院生のとして設営に携わりました。その経験が決定的でしたね。

竹下先生

フォントとして興味を持ち出したのは、学生時代にタイポグラフィの授業で「書体デザイン」の仕事があると聞いてからです。私が授業で教わった先生は、何も見ずに白い紙の上にみぞびきをしながら、明朝体の漢字などを下書きなしでデモンストレーション的に書いてくれました。

それ以前から、文字には興味があって、硬筆など、書くことがとても好きでした。中学のときには人のまねをして丸文字を「あ」から「ん」まで書いたこともありました。そういったこともあって、自分はこの仕事をやるために多摩美に来たんだなと思います。

阿部先生

素敵なエピソードは特にないんですが(笑)

大学生の時にヘルムート・シュミット編纂の「タイポグラフィトゥデイ」で、スイスの1960年代のエミール・ルーダーやヨゼフ・ミューラー=ブロックマンの作品を知り、ここで使われている書体は何だろうと思って意識したのが最初です。特にサンセリフ書体のわずかな違いでこんなに作品の印象が変わるんだと衝撃を受けました。

守先先生

Macを使い始めたとき、モリサワには最初、中ゴシックBBBとリュウミンの2書体がありました。当時は、コンピュータに不慣れな状態で作業していたので、何かの拍子に間違いで文字が大きくなることがあったりして。それをみた時に、文字の形というのは文字が大きくなるとこうなるんだ、面白いなと思いましたね。

写植のときは、お金や手間がかかることなので、文字を大きくしたり、小さくしたりすることは簡単にはできません。大きな文字で打つことも、モニタで確かめることもありませんでした。書体の形というのはこうなっているんだと、意識したのはそこからですね。

Q.好きなモリサワフォントとその理由

守先先生

好きなモリサワの書体はゴシックMB101リュウミンL-KOです。

最初はMac2書体しか使えなくて、今みたいに自由に使える時代じゃなかったから、許せないという感じでしたね。写植だともっとたくさんの書体が選べていましたのでね。しかし、徐々に増えていって、太いウエイトのゴシック体であるMB101のBやHやUの発売は心待ちにしていました。今でも好きな書体です。Macで使えるようになったのは素晴らしいことです。

佐賀先生

凸版文久体と中ゴシックBBBです

凸版文久体はやわらかくて好きです。漢字がいいなと思っています。

中ゴシックBBBは、組んだときにスラッとして見える、ひらがなとカタカナのバランスが好きです。1文字1文字はあまりきれいではないんですが、並べるときれいなのが謎ですね。(笑)
雑誌などでみたときに印象的です。自分が中高生で、一番雑誌を見ていた頃のすりこみがあるんでしょうね。

阿部先生

よく使うのはリュウミンこぶりなゴシックです。

中ゴシックBBBは自分でも今だにうまく使いこなせないっていう意味で逆に好きです。揃わないのが特徴の味があって、難しい書体ですよね。

竹下先生

選べません。自分の作った書体でないものは全部いい。

逃げているわけではなく、自分の作った書体はちょっと恥ずかしいんです。(笑)
何年か経って、使われているのを見ると、今ならもうちょっと直すのにって思ってしまいます。他に人が作ったものをみると、こういう風にかけばいいのかと勉強になりますね。

モリサワの書体はデジタルになってからの方がクオリティが高いと感じています。写植時代のもは手書きのベースが残っていて、味があるけれども整理されていない感じがして、最近の書体は、たくさんの工程と多くの人の目を通して制作しているそうなので、ものにもよりますが、新しい書体は洗練されていていいですね。

Q.先生から見たこの学校の学生って?

佐賀先生

「正直・まじめ・明るい」これじゃないでしょうか。

この3つで私の中ではキャンパスのある立地とリンクしています。高い建物がなく、見晴らしがいい。そんな印象がありますね。

竹下先生

他の大学、美大、芸大よりも個性があります。なぜかっていうと学生数が多いので、自分が他の人とどう違うかを出していかないと生き残れないのです。「個性的であれ」って誰かが言っているわけではないけど、作品を作る過程で嫌でも自分と向き合わないといけないので、個性を考える機会も多いと思いますね。

守先先生

自信があるときと自信がないときがあって。こんなに優秀なのに、なんでこのときは自信がないの?と驚くことがありますよ。全体的にとてもまじめでいい子が多いなと感じています。

阿部先生

書体制作の面で言えば、学生なのにここまで作れることにすごくビックリしています。多摩美の学生の場合、自分の得意分野が分かっている人がきっと多いのでしょうか。「これは時間をかける」とか、「この授業は手を抜く」とか…。人数が多いから自分がどこで生きていくのか、早い段階で道を見つけるのかなと感じます。

Q.スイッチが「OFF」になる瞬間

阿部先生

お風呂につかって本を読むときです。熱いので、お風呂で読むときは、クセがない書体がいいです。

守先先生

一日中、仕事のことを考えています。特にお風呂で湯船に浸かっているときにアイデアが浮かぶんですよ。小さい頃からの習慣で必ず朝に入ります。

OFFになるのは、旅に出るときですね。旅に出ると、仕事のことを考えず、完全に切り替えています。電車に乗っているときとか移動しているときもそうですね。でも、それ以外は毎日、いついかなるときでも仕事のことを考えています。

竹下先生

寝ているときかな。でも、たまに夢にでてくるときもありますよ。職業病ですね。

映画をみて、映画の字幕の文字で、この丸ゴシックは……って(笑)
文字のない世界は考えられないです。逃げ場がないですね。

佐賀先生

好きなことをして笑っている時間ですね。海のそばにいるとき、釣りをしているときかな。ドライブやバスケットボールなどもします。

Q.これからチャレンジしたいこと、興味のあること

阿部先生

ヨーロッパでは、グラフィックデザイナーでありながら書体デザイナーという人が増えているように感じます。自分がつくったデザインに、自分の作った書体を使う。すると、それが書体見本にもなって、書体を買う人がいる。
日本ではどうなるか分かりませんが、個人的には、書体もデザインも両方できるという人に興味があります。

守先先生

最近は、役所のホームページなどでもWebフォントが使われ始めているという話を聞いて、興味深く思っています。これまでのWebの仕事だと、言葉が変わらない部分は、画像にしておけばいいって思っていましたが、Webフォントを利用することで解消できる問題もあって、効果的な方法だなと感じています。

チャレンジしたいこととしては、自分の範囲外の書体を使って仕事をするということです。普段は使用する書体が固定されて、意外性のある書体が使えないので、「えーっ?」と思うような書体づかいをしているデザイナーさんを見ると、ある意味、羨ましいなと思います。例えば、若者に対する本だったら、若者には「すずむし」が人気なので、普段は使わないけれど、使ってみるとか。最初から決めうちはしないで色々と試して、しっくりとくるものを選んでいきたいです。

竹下先生

構想中の書体を世の中に出すことです。

昔はそんなことはありませんでしたが、今は誰がこの書体を作ったのかということが知れ渡るようになりました。自分が書体に関わっている以上は、ちょっとした責任感みたいな、重圧みたいなものを感じることがあります。

パソコンで拡大縮小などが自由にできて、書体を隅々までまじまじと見られるようになった今は、ある意味、自分が素っ裸で歩いているみたいな感覚です。フリーフォントなどもたくさんありますし、そういうことを考えるとますます手を抜けない、ちゃんとしたものを世の中に出していきたいと思います。

佐賀先生

長い時間をかけてできる仕事がしたいと思っています。
デザインの歴史や文字の歴史についてや、今は「アート・デザイン・クラフト」が分かれていますが、それらを結びつけて考えられるようになりたいですね。

世の中で新しいものを生み出すのがアートで、アートが生み出した新しいものを方向付けるのがデザイン。デザインが方向付けるとやがて経済に結びついて、経済と結びつくことで新しい文化がうまれる。そうこうしているうちに、別の転換点がきてデザインから経済が抜かれて、その手仕事的な質感みたいなものがクラフトとして残る。それを繰り返してきたと思うんです。全部を分けて考えるのもいいですが、そうすると既存の枠の中でしか考えられなくなるので、総合的に考えていきたいです。

そしていつか2004年に体験したような展覧会みたいなことが実現できたらいいなと考えています。