インタビュー

2017.11.06

東京造形大学 海士智也先生インタビュー

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東京造形大学
グラフィックデザイン専攻領域
海士 智也先生

Q.どんな授業を担当していますか?

ゼミでは「デザインプロセスのコミュニケーション」をテーマにしています。
「デザインは一人では絶対にできない」ということが根源にあります。当たり前のことなんですけど、いろんな人とのコミュニケーションの連鎖によって、デザインは生まれている。

実際の仕事を見れば、クライアントとの対話、イラストレーターや写真家のような他のプロとの対話がある。その先には必ず消費者との対話があるけれど、それ以前のたくさんの対話は、大学の課題だと自分でほぼ全てをまかなうため、ほとんどなされない。

それが実際の世界とは違っている部分で、実はものづくりの本質から抜け落ちているところじゃないかなと考えて、ゼミではそこを埋める為に授業をしています。

Q.フォントの感性が“ON”になった瞬間

僕がMacを買った90年代中盤って、コンピュータに夢や幻想があったんですね。いろんなインディペンデントな動きがあって、動画やCGと同様に、グラフィックデザインやフォント制作についてもクリエイターが交換をしあっていた。

例えば「フロッケ展」というフロッピーディスクで作品を交換するような展示があって、いろんなメディアが交錯していた。そんなときに、起爆剤としてインターネットが出て、いろんなクリエイティブの海にボートを漕いで行けるようになった。

そこでいろんなフォントのクリエイターさんのところに行って(演奏する楽器を選ぶように、文字も選んで表現するんだ!)と衝撃を感じました。
これはデジタルじゃないと生まれなかった動きだと思ってて、僕は「デジタル」と「ネットワーク」があって、デザイナーになれた種族ですね(笑)

Q.好きなモリサワフォントとその理由

無人島に持っていきたいフォントは「中ゴシックBBB」です!実はみんな好きな、一番人気フォントだと思います。格好いい場面にも使えるし、分かりやすく伝えるのにも使える。匿名性のある書体に見せて、実はすごくキャラがある書体じゃないかと思っています。

もう一つ挙げると、「黎ミン」です。黎ミンのパンフレットは僕がアートディレクションさせていただいたんですけど、ポテンシャルが理解されていないフォントの一つという気がします。

黎ミンって、モリサワの技術力や労力を全部詰め込んだ書体だと思っているんですが、まだ時代が追いついていないのかなと。明朝体に情緒性あるオールドスタイルを求める動きは昔からあるんですけど、モダンスタイルを求める動きはまだ少ない。

黎ミンは、日本人が昔から使ってきた明朝体に、モダンなシステムの考え方、モダンな利用形態というのが詰まっていて、横画のコントラストなど使い方は難しいですが、うまく使えば無敵の書体じゃないかなと思います。

Q.先生から見たこの学校の学生って?

多様性があります。
例えばグラフィックを学びながら映像や立体、ファッションも学ぶなど、次世代型の学生が多いのが特徴かなと思います。カリキュラムに横断的なものが多くて、規模が小さくて他専攻にも友達がいたりするのもあるのかな。

これからは自分の能力をカスタマイズする時代だと思います。極める事も素晴らしいんですけど、それだけだと差別化ができない。2つ以上のことをかけ算していくことが重要じゃないかな。それはゲームとか音楽とか、勉強っぽくないことでも良くて、かけ算してみることで新しい道が見つかるんじゃないかなと思います。

Q.スイッチが「OFF」になる瞬間

「ON」「OFF」のスイッチというより、切り替えのスイッチなんですよ。
例えばアートディレクターと教員というスイッチがありますし、文章や本を書くことと、デザインを制作すること、趣味で音楽を作ることなど、昔のTVのチャンネルみたいな感じで切り替えています(笑)

Q.これからチャレンジしたいこと、興味のあること

アートディレクターとして「デザイン」を作るだけでなく、モノが売れるとか人が集まるとかをもう少し幅広く考える、「仕組み」を作る方をやっていきたいです。

自分の作った枠内であれば、デザイン自体はそれぞれのデザイナーに権限委譲して任せてしまえる所までいきたいなと考えています。課題を大きなところから切り分けるという仕事の仕方がしたいです。